最近、日本製鉄による米国の鉄鋼大手「USスチール」の買収が大きなニュースになっています。
実はこの買収、普通のM&Aとは少し違う「黄金株(ゴールデンシェア)」という仕組みが登場して注目を集めています。
今回は、この黄金株について、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
黄金株とは?普通の株とどこが違う?
黄金株とは、一言でいうと「拒否権を持つ特別な株」です。
通常、会社の経営は株主の多数決で決まりますが、
黄金株を持つ株主は特定の重要事項について拒否権(veto)を持ちます。
たとえ他の株主が全員賛成しても、黄金株保有者が「ノー」と言えばその決定は無効になるのです。
具体的には、以下のような場面で使われます。
要は、会社の根幹に関わる大きな決定にストップをかけられる株というわけです。
なぜこんな株が存在するの?
背景には国家安全保障や公共性の高い事業の保護があります。
たとえば、国が重要インフラ企業(通信、鉄道、エネルギーなど)を守るために黄金株を持つことがあります。
外国資本による買収や経営支配を完全に自由にさせると、安全保障上のリスクが出てくるため、最低限のコントロールを持つ仕組みとして黄金株が使われます。
ヨーロッパやアメリカでは国防や安全保障が絡むM&Aでときどき登場します。
日本ではあまり一般的ではありませんが、かつて日本郵政やNTTなど国が一部管理する企業で利用されてきました。
日本製鉄×USスチールの買収で黄金株が登場
今回の日本製鉄のUSスチール買収でも、まさにこの黄金株が登場しました。
米国政府はこの買収を承認する条件として、日本製鉄に米政府が黄金株を持つことを求めました。
これにより、USスチールの以下のような重要事項について、米政府が拒否権を持つことになったのです。
- 本社を米国外に移す
- 主要な工場を閉鎖・海外移転する
- 社名変更する
- 米国雇用に大きな影響を与える決定をする
アメリカにとって鉄鋼産業は軍事やインフラに直結する重要産業。
完全に外国企業の思い通りに動かれるのは困るという思惑があります。
実際の経営にどこまで影響があるのか?
「黄金株があるなら日本製鉄は自由に経営できないのでは?」と心配する声もありますが、基本的には日常の経営判断や通常の事業運営については日本製鉄が主体的に経営可能です。
黄金株の行使は、あくまで「本社移転」や「大規模な工場閉鎖」などの非常事態に限られます。
つまり、米国内の雇用や供給体制に重大な影響が出そうな時に、米政府が最後の歯止めをかけられる仕組みです。
今回の買収合意後、米政府と日本製鉄は国家安全保障協定も結んでおり、「アメリカ国内の雇用や供給を維持する」という条件も取り決められています。
黄金株は今後も増える?
今回の黄金株導入はアメリカでもかなり珍しいケースです。
米国は基本的に民間企業の経営には介入しない自由主義経済ですが、安全保障の観点からは徐々に介入の動きが強まってきています。
今後は、半導体やAI、エネルギーなどの重要産業でも、外国企業の買収に対して黄金株が使われるケースが増えていく可能性があります。
国際的なM&A交渉では「経済安全保障」がますます大きなテーマになっていくでしょう。
まとめ
- 黄金株とは、重要な経営判断に拒否権を持つ特別な株。
- 国家安全保障やインフラ保護のために使われる。
- 日本製鉄によるUSスチール買収では、米政府が黄金株を取得。
- 日常の経営は日本製鉄が担うが、重大な変更には米政府の許可が必要。
- 今後も経済安全保障の観点から黄金株が注目されそう。
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